取締役会議事録の電子化は、単なるペーパーレス化以上の意味を持ちます。それは、経営の意思決定スピードを加速させ、ガバナンスの本質を「形式」から「実質」へと取り戻すための重要なステップです。
2020年の法務省見解により、実務の景色は大きく変わりました。かつて必須と思われていた「実印」や「厳格な電子証明書」がなくとも、クラウド上で完結する電子署名が法的に有効であることが明確化されたのです。
しかし、いざ導入しようとすると「商業登記は通るのか?」「代表取締役の選定時はどうする?」といった実務的な壁に直面します。
本記事では、2025年時点の最新ルールに基づき、会社法および商業登記規則の要件を整理し、Jicooなどのツールを活用した「法的に安全で、かつ効率的な」取締役会議事録の電子化フローを解説します。
まずは基本となる会社法のルールを確認しましょう。電子化を検討する際も、この原則がすべての土台となります。
会社法第369条第3項により、取締役会の議事録には、出席した取締役および監査役が署名または記名押印しなければなりません。 また、同条第4項では、議事録が電磁的記録(PDFなどの電子データ)で作られた場合、署名・記名押印に代わる措置として「法務省令で定める署名または記名押印に代わる措置」をとることが義務付けられています。これが、いわゆる電子署名です。
作成された議事録は、取締役会の日から10年間、本店に備え置く必要があります(会社法第371条第1項)。 紙で保存する場合、10年分のバインダーが物理的なスペースを圧迫し、過去の決議内容を検索するのも一苦労でした。電子化により、クラウドサーバー等での保存が可能となり、検索性も飛躍的に向上します。

取締役会議事録の電子化が一気に現実的になったのは、2020年のパラダイムシフトがあったからです。
以前は、取締役会議事録への電子署名は、本人性が極めて高い「当事者型(実印タイプ)」の電子署名でなければ法的リスクがあると考えられていました。これには専用のICカードや複雑な設定が必要で、多忙な役員全員に導入するのは困難でした。
しかし、2020年5月29日、法務省は経済界からの要望を受け、以下のような見解を示しました。
サービス提供事業者(クラウドサインやGMOサイン等)が利用者の指示に基づいて電子署名を付与する「立会人型」であっても、利用者の意思に基づいていれば、会社法上の署名要件を満たす。
この見解により、メール認証などをベースとした使いやすいクラウド型電子署名サービスが、取締役会議事録でも正式に利用できるようになったのです。
この変更は、コロナ禍における「ハンコ出社」をなくすという社会的要請から生まれました。経営陣がどこにいても、タブレットやPCから数クリックで承認・署名が完了する環境は、BCP(事業継続計画)の観点からも標準となりつつあります。
実務上、最も悩ましいのが「どの電子署名サービスを使うか」という点です。結論から言えば、「基本は立会人型、特定の登記時のみハイブリッド」が現実的な解です。
月次の業績報告や、登記を伴わない決議(人事異動や規定改定など)を行う通常の取締役会であれば、立会人型(事業者署名型)の電子署名で法的に問題ありません。 多くの企業が導入している「クラウドサイン」や「GMOサイン」などの標準プランがこれに該当します。
問題は、法務局への登記申請が必要な場合です。特に「代表取締役の選定」を行う取締役会議事録は、乗っ取り防止のために厳格な本人確認が求められます。
| ケース | 必要な署名レベル | 備考 |
|---|---|---|
| 通常の取締役会 | 立会人型(認印相当) | ほとんどのケースはこれでOK |
| 代表取締役の選定 | 実印相当が必要 | 商業登記規則61条6項の適用 |
商業登記規則では、代表取締役を選定する議事録には出席役員全員の実印(電子署名ならマイナンバーカード署名等)が必要とされています。しかし、実務上は以下の例外規定を活用することで、全員が高度な電子署名を用意せずとも登記を通すことが可能です。
つまり、「前代表取締役だけが厳格な署名を行い、他の役員はいつものクラウド署名を行う」というハイブリッド運用であれば、スムーズに登記申請が可能です。

実際に取締役会議事録を電子化するための具体的なステップを解説します。ツール導入だけでなく、社内ルールの整備が不可欠です。
まず、社内規定である「取締役会規則」を見直します。多くの企業では「記名押印する」という文言になっているため、以下のように電子署名も許容する条文に変更・追記します。
(議事録) 第○条 議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、出席した取締役および監査役は、これに電子署名をなす。
電子化の効果を最大化するには、「署名」だけでなく「作成」プロセスからデジタル化することが重要です。
法務担当者は、司法書士と連携し、以下の運用フローを確立します。
取締役会議事録の電子化は、法改正と実務の積み上げにより、2025年現在では「やらない理由がない」レベルまで環境が整いました。
これは単なる業務効率化ではありません。ハンコのために出社するという「形式」から解放され、取締役会という最高意思決定機関が、より本質的な議論と迅速な決断に集中するための「美意識」ある変革です。
まずは次回の取締役会から、議事録のドラフト作成をデジタル化し、段階的にペーパーレスへの移行を提案してみてはいかがでしょうか。
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